判例に見る自治組織(町内会)の加入問題

中田実. (2007). 地域分権時代の町内会・自治会 (p. 167). 自治体研究社.

ちょっと大学院の授業の関係、そして論文の関係で、まとめることがあったので、自分の備忘録のためにポスト。「自治会の脱退の自由を最高裁が認めた」という判例についてです。
 参考文献として紹介している中田實教授(愛知学泉大学)の著書からのメモがほとんです。
 確かに自治会については、好意的な意見と批判的な意見がありますが、農村地域では「良いところを伸ばしていく」「悪いところはみんなで熟議できるような場を設けて、変えていく」ということが必要ではないでしょうか。法律だけでは解決出来ない部分があるような気がします。
 いずれにしろ、みんなで地域を守っていく、育てていく、変えていく、という気持ちがあれば、あとはやり方の話になると思います。

裁判の内容

県営住宅3棟の団地入居者により構成される自治会。「この団地自治会の役員であった一住民が、役員間の意見の不一致から、2001年に自治会脱会を申し出た。その住民は、脱会したのだからと自治会費を払わなかったので、自治会側が、滞納額の支払いを求めて裁判を起こした。」

経過

◆地裁→この住民の退会は認められず、滞納した自治会費の支払いが命ぜられた。
◆高裁→この住民の退会は認められず、滞納した自治会費の支払いが命ぜられた。
 ⇨判決に不服であったこの住民は最高裁に上告
◆最高裁→退会を認め、自治会費のうち共益費分のみの支払いが命ぜられた。


自治会の退会について

地裁・高裁の判断
・自治会は公共の利害にかかわる事項等の適切な処理を図ることを目的として設立されたもの。
・規約においては、この自治会は入居者によって組織されるとされており、退会については特に定められていない。
・自治会の事業は特定の思想、宗教、党派等によって左右されてはならないと定められている。
・よって自治会の設立の趣旨、目的、団体としての公共的性格等に照らして考えれば、自治会が法を違反したり、個人の権利を侵害するなどよほどのことをしていれば退会は許されるが、個人的な感情から自治会を退会することはできないと判断。

それに対して最高裁は
・自治会は親睦や、環境維持・共同利害の調整などを行う権利能力のない社団
・いわゆる強制加入団体でもなく、その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないから、会員は一方的意思表示により退会することができる
・自治会の設立の趣旨、目的、団体としての性格等は関係ない、と判断。

自治会費の支払いについて

地裁・高裁の判断
・入会すれば、当然、施設の利用やその維持管理や環境の良さなどを会員は受けるので、そのための共益費を払うことは当然。
・また、自治会の運営や事業を行うために、自治会費を負担するのも当然、という判断。

それに対して最高裁は
 「自治会は私的な利益をはかるものではなく、公共の利害に関わる時効を処理しているということはいえるかもしれない」が、「共用施設の維持管理の決定権限は公社」にあるので、自治会のもつ公共性は「言葉だけの問題に過ぎない」と切り捨て、共益費の負担を住民と公社の関係に限定してしまった。

詳細

この住宅を埼玉県から業務委託を受けているのが、埼玉県住宅供給公社。これが発行する『県営住宅・住まいのしおり(保存版)』に共益費の規定あり。このことを根拠に、最高裁は「自治会活動」と「公社による活動」を分けて考えたために、上記最高裁の判断に。
 この裁判の発端は、自治会の会議の中で「殺虫剤散布」について何回散布するか、ということで異議を申し出たのが発端。この回数が自治会で決定されたあと、公社に申し出ると、今度は公社がそれを実施する、という関係。
 自治会のしおり(後述)の中には、自治会の活動及び共益についていくつか挙げているが、実は殺虫剤散布については明確な規定がなく、「その他」の項目に入っていると最高裁は定め、しかもそれが「公社の仕事だから自治会のことじゃないよ」と機械的に決定した。
 そのため、自治会費(月3000円)と言われるもののうち「狭義の自治会費月300円」は支払わなくてもいいが「共益費2700円」の滞納分は払いなさいよ、という判決。

「共益費以外で自治会が使った共同の利益に関する事項、例えばお祭りをしたいという声もあります。それについて最高裁は、 自治会が行う公益的な業務による第三者の利益、 団地の草取りをやってきれいになったというようなことになると全員が利益を受けるわけですが、そういう利益は不公平だというふうに言うとしても、それは参加者の得る利益の「反射的利益」に過ぎない。これは法律用語ですが、参加していない人のためにやっているわけじゃなくて、参加している人の利益のためにやった。その結果、たまたまほかの人も利益を得たという反射的な利益に過ぎない。もしそれが不当だと思うなら、負担した者のみが利益を得られるシステムをつくればよろしいという言い方をします。どうするんでしょうね、負担した者には虫が飛んでこないようなシステムなんて。」(中田, 2007)

中田實が指摘する本裁判のポイント(中田実, 2007)

自治組織からの脱退の自由を認める判決で、全国の自治会活動で汗を書いている人たちには大変厳しい判決だったが…
1)自治会の加入・非加入を問わず、その地域に居住する限り、共同の利害(共益)のための負担金を免れることができない。
2)自治会からの脱退は、生活者としての権利の主張のようにみえて、実はその放棄でしかない。
 退去の自由は認められたが、その地域から退去しない限り(共益費の)負担の義務を追う。また退会は、公社だけではなく実際には自治会も持っていた共同の事業についての「発言権を放棄」することでしかない。


参考…長野県内の自治基本条例等に見る「自治組織への加入」の規定

長野県内を見てみると、自治会の加入についてまちづくり基本条例などで規定しているところが多いのですね。何れにしても、まずは自治会で行うこと、どうしてもできない部分を行政がサポートする、その役割分担を決めるためにキチンと協議できる場所がある、そういうことが重要です。地域にその役割分担が違っても良い、それこそが自治のようなきがします。
高森町町民参加条例
(基本理念)
第2条 町民参加のまちづくりは、地方自治の本旨に基づき、町民が、自主的な住民自治を基盤として、町と協働し、主体的かつ継続的に行われるよう努めるものとする。
2 町民は、地域社会における自らの役割と責務を認識し、まちづくりの根幹をなす住民自治の担い手として、自治基盤である常会・区等(以下「自治組織」という。)の加入に努めるものとする。
(自治組織への加入促進)
第3条 自治組織への加入は、別に定める指導要綱に基づき、町と地域住民が協働して促進に努めるものとする。

駒ヶ根市協働のまちづくり条例
第4章 地域自治の確立
(自治組織の意義及び地域住民の責務)
第9条 市民は、互いに助け合い、地域の課題に自ら取り組むことで、心豊かに安心して暮らせる生活環境を築いている自治組織の意義を認識し、尊重します。
2 市民は、全員が自治組織に加入し、自治組織を通じて行動することで、地域の一員としてその責務を果たしていくことに努めるものとします。
3 自治組織に加入することができない特別な事情がある場合は、自治組織に加入した場合に準じて、地域における負担を分任し、地域で生活していくうえで責任ある行動に努めるものとします。
4 市は、自治組織の自主性及び自立性を尊重し、協働してまちづくりを進めるものとします。

小諸市自治基本条例
(区等の役割)
第8条 区は、対象地域における共通課題を解決し、福祉の向上を図ります。
2 区は、まちづくりを推進するため、対象地域に住む人等の意見の把握と集約に努めます。
3 区は、対象地域に住む人等の参加の機会を確保するとともに、参加、協力に必要な環境づくりに努めなければなりません。
4 区長は、区の代表者として、第1項の目的の達成に努めます。
(区への加入)
第9条 本市に住む人は、前条第1項の目的を達成するため、区へ加入しなければなりません。


参考文献

同一の方なのですが、WEBによって名前の表記が略字を使っているのです。

中田実. (2007). 地域分権時代の町内会・自治会 (p. 167). 自治体研究社.





中田實. (2007). 地域自治組織とコミュニティ―住民自治のあり方を考える. 『ヘスティアとクリオ』第5号, 5.
Retrieved from http://n-yoshi.sakura.ne.jp/yoshi/hestia/archives/no5/nakata.pdf








これも自治組織を学ぶ上で、重要な書籍です。





1 件のコメント:

hiroshi kusaka さんのコメント...

長野県の自治基本条例は憲法や法律に抵触する可能性があるでしょう。
結社の自由は「入会する自由・退会する自由自・入会しない自由」を認めているはずです。

自治会や区などに入会推奨や強要することはできないはずです。
これを行政が条例で明文化するのはいかがなものかと思います。

罰則規定はないと思われますが問題だと思います。

任意の団体ではなく、協同組合化するなど方法はいろいろあると思います。

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